次に向かった茨城県猿島の現場でも、同じ呪符が見つかった。
陽はすでに傾きかけていた。栃木から茨城を経て八王子への車移動は流石に時間が掛かる。
その間も直桜はずっと考えを巡らしていた。
何も聞かずにいた護が重い口を開いたのは、八王子の現場に着く直前だった。
「今日一日、何を考えていましたか?」
「何って、あの呪符のこととか、神降術のこととかだよ。枉津日神を降ろしてどうするつもりなのか、とか」
反魂香と神蝋があれば、神は降ろせる。だが、器をどうするつもりなのか。御霊と違って神は、どんな人間にも憑依するものではない。
降りる先は、神が決めるのだ。
(そんな特別な|人間《器》を用意できるとは思えない。少なくとも一朝一夕には無理だ。だとしたら、繋ぎとめる鎖が必要になる)
鎖もまた儀式だ。だとすれば、近いうちに反魂儀呪がまた集会を行うはずだ。
「本当に、そうですか?」
護の言葉に、直桜は思考を止めた。
「八張槐のことを考えていたのではないですか?」
確かに、考えていた。
これだけの儀式を執り行えるのは槐しかいない。あの男が何を企み、何を成したいのか。枉津日神を降ろしてやろうとしていることは何なのか。考えないはずはない。
だがきっと、護が言いたいことは、そうじゃない。
「直桜が初めてバイトの面接に来た時、どんな顔をしていたか、自分でわかっていましたか? 私はよく覚えていますよ」
護が、ちらりと直桜の顔を窺った。
「今のような顔をしていました。眉間に皺を寄せて、苛々している様子を隠そうともしないで。不本意に怪異に関わる時、君はきっと、そういう顔をする。そう思っていました」